第44章 記憶
「でも、僕は辛抱強く返事を書いた。同情してあげたし、親切にもしてあげた。ジニーはもう夢中になった。'トム、あなたぐらい、私のことをわかってくれる人はいないわ...なんでも打ち明けられるこの'日記'があってどんなに嬉しいか...まるでポケットの中に入れて運べる友達がいるみたい...'」
リドルは声をあげて笑う。似つかわしくない、冷たく甲高い笑いだった。
「自分で言うのもどうかと思うけど、ハリー、僕は必要となれば、いつでも誰でも惹きつけることができる。だからジニーは、僕に心を打ち明けることで、自分の魂を僕に注ぎ込んだんだ。ジニーの魂、それこそ僕の欲しいものだった。僕は、ジニーの心の深層の恐れ,暗い秘密を餌食にして、だんだん強くなった。小娘のウィーズリーとは比較にならないくらい強力になった。充分に力が満ちたとき、僕の秘密をウィーズリーの小娘に少しだけ与え、僕の魂を小娘に注ぎ込みはじめた...」
「それは、どういうこと?」
緊張した様子でハリーがトムに問いかける。
「まだ気づかないのかい?ハリー・ポッター?ジニー・ウィーズリーが'秘密の部屋'を開けた。学校の雄鶏を絞め殺したのも、壁に脅迫の文字を書きなぐったのもジニーだ。'スリザリンの使い蛇'を4人の'穢れた血'や'できそこない'の飼い猫に仕掛けたのもジニーだ」
トムは柔らかな口調だ。
「まさか」
信じられないといった感じで呟いたハリー。
「そのまさかだ。ただし、ジニーははじめのうち、自分がやっていることをまったく自覚していなかった。お陰で、なかなか面白かった。しばらくして日記に何を書きはじめたか、君に読ませてやりたかったよ。まぁ、読み上げるのはやめておこうかな」
トムがこちらをチラっと見た気がした。ここは覚えている。ジニーが恐怖や自己嫌悪、記憶が無いことや秘密の部屋に関する疑いや不安を吐き出した日記の内容をトムが読み上げたはずだ。やめてくれたみたいだが。
「とにかくバカなジニーの小娘が、日記を信用しなくなるまでにずいぶん時間が掛かった。しかし、とうとう変だと疑いはじめ、捨てようとした。そこへハリー、君が登場した。君が日記を見つけたんだ。僕は最高に嬉しかったよ。こともあろうに、君が拾ってくれた。僕が会いたいと思っていた君が...」
「それじゃ、どうして僕に会いたかったんだ?」