第44章 記憶
私は、まだトムを見れていなかった。おそらく、ハリーの杖はトムが持っているだろう。
「ありがとう」
ハリーは、手を伸ばしている。しかし、トムは何も答えない。
「聞いてるのか。ここを出なきゃいけないんだ!もしも、バジリスクが来たら...」
ハリーは急き立てるように言った。
「呼ばれるまでは、来やしない」
落ち着き払ってトムがそう言う。ハリーは、ジニーをまた床に下ろした。支えていることが出来なかったのだろう。
「なんだって?さあ、杖を寄越してよ。必要になるかもしれないんだ」
「君には、必要にならないよ」
「どういうこと、必要にならないって...?」
私は、黙って二人の話を聞いていた。
「僕は、このときをずっと待っていたんだ。ハリー・ポッター。君に会えるチャンスをね。君と話すことをね。あぁ、もちろん君もだよ、ユウミ」
最後に付け足されたトムの言葉に、私はビクっと震える。ハリーが少し驚いたようにこちらをみたのがわかった。
「いい加減にしてくれ。君にはわかっていないようだ。今、僕たちは'秘密の部屋'の中にいるんだよ。話ならあとでできる」
そう言ったハリーは、我慢が出来なくなった様子だ。
「今、話すんだよ」
「ジニーは、どうしてこんなふうになったの?」
ハリーがゆっくりと尋ねる。少しおかしいことに気づいたのかもしれない。
「そう、それは面白い質問だ。そして話せば長くなる。ジニー・ウィーズリーがこんなふうになった本当の原因は、誰なのかわからない目に見えない人物に心を開き、自分の秘密を打ち明けたことによってだ」
愛想よく言ったトム。
「言っていることがわからないけど?」
「あの'日記'は、僕の'日記'だ。ジニーのおチビさんは何ヵ月も何ヵ月もその日記にばかばかしい心配事や悩みを書き続けた。兄さんたちがからかう、お下がりの本やローブで学校に行かなければならない、それに...有名な、素敵な、偉大なハリー・ポッターが...」
『やめて。それ以上は許さないわ』
トムがその先をなんて言おうとしているかわかった私は、そこでトムを遮った。トムとハリーの視線がこちらに向くのがわかる。
「君が言うならやめるよ。11歳の小娘のたわいもない悩み事を聞いてあげるのは、まったくうんざりだったよ」
前半は私に、後半はハリーに向けてトムは言う。