第44章 記憶
石像の足の間には、燃えるような赤毛で黒いローブの小さな姿が、うつぶせに横たわっていた。隣にいたハリーはその姿の傍に駆け寄り、膝をついて名前を呼んだ。
「ジニー!ジニー!死んじゃ駄目だ!お願いだから生きていて!」
ハリーは杖を脇に放って、ジニーの肩をしっかり掴んで仰向けにした。私がそっと近寄りジニーを覗くと、ジニーの顔は大理石のように白く冷たいもので、目は固く閉じられていたが、石にされてはいないようだ。
『どうしてジニーがここに?』
「連れ去られたんだ!僕達、ジニーを助けに来たんだよ!」
『じゃあ...あの文字はジニーのことだったのね...』
私は、後のためにハリーに聞こえるようにそういった。
「ジニー、お願いだ。目を覚まして」
ハリーはジニーを揺さぶり、必死で呟いている。ジニーの頭はだらりと虚しく垂れ、グラグラと揺すられるままに動く。
「その子は目を覚ましはしない」
その時、物静かな声がした。ハリーはギクリとした様子で膝をついたまま振り返る。私には誰かわかっていたため、そちらは見ずにジニーを見つめていた。
「トム......トム・リドル?」
あぁ、やっぱりトムだ。つい先程まで一緒にいたトム。
「目を覚まさないって、どういうこと?ジニーはまさか......まさか......?」
ハリーは、絶望的と言った声をだす。
「その子は、まだ生きている。しかし、辛うじてだ」
「君はゴーストなの?」
訳がわからないと言った感じでハリーは、トムに問いかけた。
「記憶だよ。'日記'の中に、50年間残されていた記憶だ」
トムは静かに答える。
「トム、助けてくれないか。ここからジニーを運び出さなければ。'バジリスク'がいるんだ...どこにいるかはわからないけど、今にも出て来るかもしれない。お願い、手伝って......」
ハリーはトムのことより、ジニーのことを緊急だと思ったのかジニーの頭を持ち上げながらそう言った。しかし、トムが動く気配はない。
『...私が手伝うわ』
「ユウミは大丈夫だよ。僕の杖を拾ってほしいんだ」
ハリーは汗をかきながら、やっとジニーの身体を半分床から持ち上げてから自分の杖のあるところを指差そうとした。しかし、杖はない。
「あれ、おかしいな。君、知らないかな、僕の...」
ハリーが、トムの方を見上げる。