第44章 記憶
ロックハート先生は言葉を続ける。
「私は、この皮を少し学校に持って帰り、女子生徒を救うには遅過ぎたとみんなに言おう。君たち3人はズタズタになった無残な死骸を見て、哀れにも気が狂ったと言おう。さあ、記憶に別れを告げるがいい!」
ロックハート先生は、スペロテープで張り付けられたロンの杖を頭上にかざし、一声叫んだ。
「オブリビエイト(忘れよ)!」
杖は小型爆弾なみに爆発して、トンネルの天井から、大きな塊りが、雷のような轟音をあげて崩れ落ちてきた。
「ユウミ!」
反応出来なかった私の名前を呼び、ハリーが私の手を引っ張って抱き締めて庇ってくれる。次に目を開けたら、岩の塊りが固い壁のようになって立ち塞がってしまっていた。
「ロン!大丈夫かい?ロン!」
ハリーは私に大丈夫か聞いて私が頷いたのを見てから叫んだ。
「ここだよ!僕は大丈夫だ。でも、こっちのバカはダメだ...杖で吹っ飛ばされた」
ロンの声は、崩れ落ちた岩石の向こう側からくぐもって聞こえて来た。
「ア痛ッ!」
大きな声が聞こえてきた。ロンがロックハート先生の向こう脛を蹴飛ばしたかのような音だ。
「さあ、どうする?こっちからは行けないよ。何年もかかってしまう...」
ロンの声は必死だった。魔法を使えば崩せるだろうが、そうするとトンネル全体が潰れてしまうおそれがある。ハリーは悩んでいるようだ。
『ハリー、一人じゃないわ。私もいる。先に行きましょう?』
ハリーは私をまっすぐ見つめて頷く。
「そこで待ってて。ロックハート先生と一緒に待っていて。僕達は先に進む。1時間経って戻らなかったら...」
ハリーがロンに呼び掛けた。
「僕は少しでもここの岩石を取り崩してみるよ。そうすれば、君達が...帰りにここを通ることができる。だから、ハリー,ユウミ......」
ロンは、懸命に落ち着いた声を出そうとしているようだ。
『ロン、お願いね』
「それじゃ、また後でね」
ハリーは震える声に、なんとか自信を叩き込むように言った。私達は巨大な蛇の抜け殻を越えて先へと進み、ロンが力を振りしぼって岩石を動かそうとしている音もやがて遠くなり、聴こえなくなった。トムといた時と同じところを通り、左右一対になったヘビの彫刻が施された柱の間をゆっくり進んでいる。巨大な石像が見えてきた。