第40章 遭遇
男の子はそれに不満そうな顔をする。
「トムだよ。呼んでみて」
『...トム?』
トムは満足そうな笑みを浮かべて、私の頭を撫でた。トムがそのまま読書をし始めたため邪魔をしないように立ち上がろうとする。
「ユウミ、ここにいて」
しかし、手を優しく掴まれてそう声をかけられた。横を向くと、真っ直ぐに私を見ているトムと目があう。
『ユウミ、邪魔じゃない?』
「大丈夫」
『ん、わかった!』
にっこり笑って隣に座り直すと、それを見届けてからトムはまた読書を始めた。この様子をリタとその周りの子がとても驚いていたように見ていたとは気づかなかった。
『ねぇ、トム...』
私はしばらくしてから、我慢できなくなりトムに話しかける。
「どうしたの?」
『...ねむい』
目を擦りながらそう告げた。トムはそれを聞いて本を閉じる。そして立ち上がり、目を擦っている私の手を自然な動作でやめさせると、私の手を引っ張って立ち上がらせてくれる。
『...トム?』
「部屋はどこか聞いた?」
不思議に思った私が首を傾げるとそう聞かれる。眠さのために働いてない頭を無理やり働かせて、思い出す。
『...リタと同じ部屋だって...コールさん言ってた』
「どこかわかる?」
その問いに首を横にふる。
『...リタに聞いてくる』
リタは近づく私に気づくとすぐに歩みより、丁寧に教えてくれた。
「私が案内しようか?」
『トムがいるから大丈夫...リタありがとう...』
何かを言いたげなリタにふにゃあと笑って、トムの元へ戻り案内をする。
「ゆっくりでいいよ」
フラフラとしている私を見かねたのか、トムは私にそう言って私の手を握る。
『トム、ここ』
トムは頷くと、ドアを開けた。そこは 殺風景な小さな部屋で、古い洋箪笥,木製の椅子,鉄製の簡易ベッドが2つずつあるだけだった。トムは迷うことなく、ひとつのベッドに近づく。私もそれを追う。
『トム、ありがとう。ユウミ、ねるね』
お礼を言ってにっこり笑う。トムはそんな私を見つめていたが、少しの間をおいて私の頭を撫でる。
「おやすみ、ユウミ」
出ていったトムを見て、寝る支度をした私はすぐにベッドに潜りこみ眠りについた。記憶がない恐ろしさから逃げるように。