第40章 遭遇
困った顔をした女の人は、少し待っててねと言うといなくなる。私は膝を抱えて、自分の膝に顔を埋めた。自分の名前以外を覚えていないというのが悲しくて、怖くて仕方なかった。
「ユウミ、これからここはあなたのお家よ?私はコールよ」
『コールさん...』
不安になってコールさんに近づき、エプロンをぎゅっと握りしめて頷いた。そのあと私は、夕食を食べる前に紹介されることになる。
「この子がこれからみんなと一緒に住むわ。さぁ、自己紹介してごらんなさい」
私はコールさんの後ろに隠れていたが、コールさんに背中を押されてみんなの前に出された。
『...ユウミ・マーレイ...』
名前をボソリというと、コールさんは私の頭を撫でる。
「席に座って、どこでもいいわ」
テーブルを見てどこに座ったらいいか悩んだ私に声をかけてくれた女の子がいた。
「おいで?ここ空いてるわ」
コクンと頷いてその女の子の隣に腰かける。すぐに夕食を食べ始めた。私はそれをボーと見ている。
「私は、リタ・ノールズ、10歳よ。あなたは?」
女の子は面倒見のよいお姉さんタイプみたいだ。私に優しく微笑みかけて話しかけてくれた。
『ユウミは5歳...』
「そうなのね。ユウミ食べないの?」
フルフルと首を横に振って食べ始める。それを見たリタは微笑んで自分のぶんを食べ始めた。しばらくしてお腹いっぱいになり自由時間だ。リタはここでは人気者らしく、すぐにみんなに取り囲まれた。私はどうしようかとキョロキョロするとみんなから離れたところで一人の男の子を見つける。
『...あの』
私はその男の子に近づき、話しかけた。そのときリタやリタの周りにいた子達がしーんとなってこちらに注目したことには気づかなかった。
「...なに」
男の子は本に目を落としたまま、こちらを見ようともせずに返事をした。ぶっきらぼうな言い方に戸惑うが、意を決して続ける。
『森で助けてくれて...ありがとう』
最後は頑張ってニコリとすると、男の子は顔をあげて驚いたような顔をした。こちらをじっと見てから男の子は私に手招きをして、自分の隣をトントン叩く。私はそれに従い、男の子の隣に座る。
「僕は、トム・マールヴォロ・リドルだよ」
『リドル?』
なぜか名前を呼んではいけないと思った私は名字を呼んだ。