第39章 バレンタインデー
「ユウミは、誰かに渡すの?」
バレンタインデーの日の朝、いつものように起きるのが苦手なエイミーを待っている間、クレアにそう問いかけられた。
『私?あげないわ。二人は?』
「私もあげないわ」
即答したクレア。しかしミアからの返事はなく、そちらを見ると頬を赤らめて俯いていた。
『あら!誰かにあげるのね?聞きたいところだけど、ここは何も聞かないでおくわね』
クレアと顔を見合わせて微笑んでから告げると、頬を赤らめたままお礼を言われる。少ししてエイミーも支度を終えたため、私達は大広間へと向かう。
『ごめんなさい。部屋を間違えたみたいね』
「合ってるよ〜」
私が大広間についた途端に発した言葉に、エイミーがそう言った。私も合っていることはわかっているのだが、そう思わざるをえなかった。大広間は、壁という壁がけばけばしい大きなピンクの花で覆われている。
おまけに、淡いブルーの天井からはハート型の紙吹雪が舞っていた。隣には私と同じような顔をしたハリーもいる。とりあえずグリフィンドールのテーブルに行くと、ロンが吐き気を催しそうな顔をして座っていて、ハーマイオニーはクスクス笑いを抑えきれない様子だ。
「これ、何事?」
私はハリー達のすぐ隣に座る。ハリーが二人に尋ねた。私も気になったためそちらを見る。するとロンが口を利くのもうんざりだという顔で、先生たちのテーブルを指差す。そこには、部屋の飾りに合わせたようなけばけばしいピンクのローブを着たロックハート先生がいた。
「静粛に」
ロックハート先生は手を挙げて合図している。ロックハート先生の両側に並ぶ先生たちは、石のように無表情だ。ミネルバは頬がヒクヒク痙攣しており、セブルスはたった今、誰かが大きなビーカーで'骨生え薬'を飲ませたばかりというような顔をしている。
「ハッピーバレンタインデー!」
ロックハート先生が叫び、言葉を続けた。
「今までのところ46人のみなさんが私にカードをくださいました。ありがとう!そうです。みなさんをちょっと驚かせようと、私がこのようにさせていただきました。......しかも、これがすべてではありませんよ!」
もうこれ以上はやめてとの思いもむなしく、ロックハート先生が手を叩くと玄関ホールに続く扉から、無愛想な顔をした小人が12人行進して入って来た。