第38章 危険な日記
「知らないわ。......配管のところに座って、死について考えていたの。そしたら頭のてっぺんを通って、落ちてきたわ」
マートルはハリーとロンを睨み付ける。私のことには気づいてないのだろうか?
「そこにあるわ。私、流し出してやったの」
手洗い台の下をマートルは指差す。そこをハリーとロンは探してみている。私は探すふりだ。
「これかな?」
ハリーの声にそちらを見ると、小さな薄い本が落ちていた。古めかしい黒い表紙が、トイレの中の他の物と同じようにビショ濡れであった。私は、あぁあの人の日記だと心の中で思う。ハリーが本を拾おうとして一歩踏み出すが、それを見たロンが慌てて腕を伸ばしハリーを止めた。
「なんだい?」
「気は確かか?危険かもしれないのに」
これは魔法の世界で育ったロンとマグルの世界で育ったハリーの違いだろう。
「危険?よせよ、なんでこんなのが危険なんだい?」
ハリーは笑いながら言った。
「見掛けによらないんだ。魔法省が没収した本の中には父さんが話してくれたんだけど、目を焼いてしまう本があるんだって。そして、'魔法使いのソネット(十四行詩)'を読んだ人はみんな、死ぬまでバカバカしい詩の口調でしか喋ることができなくなったり。それにバース市の魔法使いの老人が持ってた本は、読み出すと絶対やめられないんだ。本に没頭したっきりで歩き廻り、何をするにも片手でしなきゃならなくなるんだって。それから…」
本を不審げに見てから、そう言ったロン。まだまだ言いそうなロンをハリーが遮る。
「もういいよ、わかったよ」
床に落ちている小さな本は水浸しで、なにやらえたいが知れない。
「だけど、見てみないとどんな本かわからないだろう」
ハリーはロンの制止をかわして、本を拾い上げた。私は触っても大丈夫と知っていたため見守る。ハリーはすぐに本...いや日記を開く。
「ちょっと待ってよ」
用心深く近づいて来たロンが、ハリーの肩越しに覗き込む。私もロンと同じようにする。
「この名前、知ってる...。'T・M・リドル'。50年前、学校から'特別功労賞'を貰ったんだ」
最初のページに、'T・M・リドル'と記されたインクが滲んでいるのを見たロンはそう言った。
「どうして、そんなことまで知ってるの?」
ハリーは感心したようだ。