第38章 危険な日記
足音がだんだん小さくなり、遠くのほうで扉の閉まる音がした。私達は、廊下の曲り角から首を突き出す。ここは、ミセス・ノリスの襲われた廊下だ。
フィルチはいつものところに陣取って見張りをしていたのだろう。なぜフィルチが大声をあげていたのかは、一目でわかった。おびただしい水が廊下の半分を水浸しにしていて、嘆きのマートルのトイレの扉の下からまだ漏れ出しているようだったからだ。
「マートルにいったい何があったんだろう?」
トイレの壁にこだましているマートルの泣き叫ぶ声を聞いてロンが言った。
「行ってみよう。大丈夫、ユウミ?」
ハリーはローブの裾を足首の上までたくし上げてから、水でびしょびしょの廊下を見て私に問いかける。
『大丈夫よ』
私が笑顔で答えると、3人で廊下を横切りトイレの故障中の掲示をいつものように無視して、扉を開け中へと入って行く。マートルは、いつもよりいっそう大声で、そんな大声が出せるのかというほどに、激しく泣き喚いてた。大量の水が溢れて床や壁が濡れたせいで蝋燭が消え、トイレの中は暗くなっている。
「どうしたの、マートル?」
「誰なの?また何か、私に投げ付けに来たの?」
いつもの便器に隠れているらしいマートルは、ハリーの問いに哀れっぽくゴボゴボと音を立てて答えた。
「どうして、僕が君に何かを投げつけたりすると思うの?」
ハリーは水溜りを渡り奥の個室まで行って、マートルに話し掛ける。
「私に聞かないでよ」
そう叫んだマートルは、またもや大量の水を撥ね上げながら姿を現した。水浸しの床がさらに水を被る。
「私、ここで誰にも迷惑をかけずに過ごしているのに。私に本を投げつけて面白がる人が居るのよ...」
「だけど何かを君にぶつけても、痛くないだろう?君の身体を通り抜けて行くだけじゃないの?」
『ちょっと、ハリー!』
ハリーは理屈に合ったことを言うが、これは大きな間違いだ。私が咎める声をあげるも遅かった。
「さあ、マートルに本をぶっつけよう!大丈夫、あいつは感じないんだから!お腹に命中すれば10点!頭を通り抜ければ50点!そうだ、ハ、ハ、ハ!なんて愉快なゲームだ。どこが愉快だっていうのよ!」
我が意を得たりとばかりに膨れ上がったマートルは喚く。
「いったい誰が投げつけたの?」
そんなマートルにハリーが尋ねる。