第31章 疑い
「ここは女子のトイレよ」
嘆きのマートルはロンとハリーを疑り深げに見て言った。嘆きのマートルはこのホグワーツにいるゴーストで、ちょっとしたことですぐに癇癪を起してしまう。普段はこの女子トイレに居座っており、その性格から彼女が居座るトイレに近付く女子生徒は誰もいない。ハリー達は、絶命日パーティーで会ったのだろう。
「この人達、女子じゃないわ」
「ええ、そうね。私、この人達にちょっと見せたかったの。つまり...えーと...ここが素敵なとこだってね」
ハーマイオニーは、古ぼけて薄汚れた鏡や濡れた床のあたりを漠然と指差した。
「何か見なかったかって、聞いてみて」
そんなハーマイオニーにハリーは耳打ちをする。それを気に入らなかったのかマートルがハリーをじっと見て言った。
「なにをこそこそしてるの?」
「なんでもないよ。僕達、聞きたいことが...」
ハリーは慌てて首を振り話を切り出すが、マートルに遮られてしまう。
「みんな、私の陰口を言うのはやめて欲しいの。私、確かに死んでるけど、感情はちゃんとあるのよ」
マートルは途中、涙で声を詰まらせながら言った。
「マートル、誰もあなたの気持ちを傷つけようなんて思ってないわ。ハリーは、ただ...」
「傷つけようと思っていないですって!ご冗談でしょう!私の生きてるあいだの人生って、この学校で悲惨そのものだった。今度はみんなが、死んだ私の人生を台無しにするためにやって来るのよ!」
ハーマイオニーはハリーをフォローするように言うがマートルはそう喚く。
「あなたが近ごろ何かおかしなものを見なかったかどうか、それを聞きたかったの。ちょうどあなたの玄関のドアの外で、ハロウィーンの日に、猫が襲われたものだから」
ハーマイオニーが急いでそう言う。それに続き、ハリーも尋ねた。
「あの夜、このあたりで誰か見掛けなかった?」
「そんなこと気にしていられなかったわ!」
マートルは興奮気味にそう叫ぶ。そして言葉を続ける。
「ピーブズがあんまり酷いものだから私、ここに入り込んで死のうとしたの。そしたら、急に思い出したの。私って...私って...」
言葉を詰まらせるマートル。
「もう死んでた」
ロンが手助けするように後を続けた。マートルは、悲劇的なすすり泣きと共に空中に飛び上がり、真っ逆さまに便器の中に飛び込んだ。