第3章 浅葱色の哀愁
(あなたside)
「あれ? 小夜、こんな時間に湯浴みしたの?」
今日は風が気持ちいいからと開け放していた襖
小さな足音を立てながらその先の廊下を歩いてきたのは髪を濡らした小夜左文字だった
「あぁ…馬は僕を嫌がっている…」
「馬…?」
今日は馬当番を陸奥守と一緒にやるよう頼んだはず…そこで何かあったのかな
少し落ち込んでいるようにも見えるから、聞きづらい
「小夜が嫌なら、出来るだけ馬当番は避けようか」
「馬のためを思えば、その方がいい…」
「うん、わかった
あ、手ぬぐいが水を吸いきってる…替えをあげるよ」
箪笥の引き出しから新しい手ぬぐいを取り出し渡すと、何故か訝しげな顔でこちらを見る
「僕に優しくするなんて…あなたは……誰かに復讐を望むのか……?」
「えぇ!? ふ、復讐…?」
手元の手ぬぐいを握りしめてじっとこちらを見つめる小夜
こ、これはどうしたものか…
訳がわからずただ見つめあっているだけのかたちになっているところに、もう一つ足音が近づいてくる
「よお大将、ちょっと頼みがあるんだが……何してんだ?」
「薬研!」
黒いシャツ、短パン、ネクタイと対照的な白衣をなびかせて部屋を除いた訪問者は、瞬時に部屋の中のただならぬ雰囲気を察知したらしい