第3章 浅葱色の哀愁
(清光side)
俺が目を覚ましてから随分と経つのに、未だに傷は完治していない
主達は傷が一つでもあるうちは俺を働かせる気はないらしく、近侍の仕事は相変わらず堀川がこなしている
毎日何もせずに過ごすのにもいい加減耐えきれない頃合いだ
今は堀川が史料を探しに行っていて部屋にいない
もっとも部屋から出るなと釘は刺されているけれど
「ちょっと散歩するだけ…堀川が帰ってくるまでに戻れば大丈夫だから」
自分に言い聞かせて部屋を抜け出す
前田や五虎退をはじめとする短刀たちは随分俺の体を案じてくれているから、抜け出したと知ればすぐに布団に返される
骨喰や薬研なんて以ての外、すぐに堀川に言いつけられるだろう
今の俺が顔を出せる場所はひとつしかない
「まぁたおんしか」
俺の隣の部屋で寝起きしている陸奥守吉行のところだ
「だってあんたくらいだもん、部屋に戻れって言わないの」
「おんしゃあ元気そうやきかまんろう
それに、なぁーんもすることがないっちゅうのは勿体ない」
がははと笑いながら俺を迎え入れてくれる彼は、この本丸に今までいなかった類いの性格をしている
まさに新しい風が吹いたような気分だ
その陸奥守の手にあるものが握られている
どうやら先程までそれを磨いていたらしい