第2章 一人、また一人
今剣が日頃畑当番をしたくないと言っているのはただの我が儘だけど、どうやら骨喰にはわけがあるようだ
「食事の準備となれば、必然的に火を使うだろう?」
「え? まぁそうだね」
「俺は...江戸時代に大火に焼かれたことがある」
「...焼かれた?」
「その後再刃されたが、俺にはそれ以前の記憶がない
あるのは炎だけ...
だから...火を扱うのは苦手だ」
ここまで見てきた感情のない表情とは違い、悲痛な顔で語られた過去は想像もしないものだった
迫り来る炎から逃れる術もなく、ただ焼かれた
それが刀にとってどれだけ恐ろしいことか
その瞬間の記憶はないのかもしれないけれど、要するにトラウマになっているといったところだろうか
気持ちは分かる
けれど、俺には一つ思うことがあった
「骨喰の事情は分かったよ
じゃあ骨喰の当番の日は火を使わないでいいようにするからさ」
「すまない...手間をかける」
「たださ、」
「...?」
「今の俺たちは、飾られてたり、持ち主に振るわれる時を待ってた頃とは違う
主のおかげでこうやって人の身をもってこの本丸で暮らしてる
だから、ここで一緒に暮らす以上、過去の記憶だけに囚われる必要はないと思うんだ」