第3章 狐の声。
「っ」
咄嗟に目を閉じる。得体の知れない目の前の不気味な面を付けた人物。何をされるかわからない。恐怖に体が動かず、じっと狐の行動を待った。
冷たい指先がそっと頬に触れた。近付いて来る体温に僅かに目を開けると恐る恐ると言ったように静かに抱きしめられた。状況が飲み込めないまま狐を見上げる。しかし見上げた目は狐の手によって遮られた。
「…もう怖いことはなにもないよ」
先ほどと同じ声なのに、なにかが違う。優しさを孕んだ声はすっと心に落ちた。悲しくもないのに何故か涙が零れた。
『―――だからお眠り』
心地よい声が降り、まるで催眠術のように全身を包む声。その声に身を任せ、俺の意識はそこで途切れた。