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【BL】創作跡地。

第3章 狐の声。



 正確には狐ではない。狐の面を被った、おそらく男。嫌に冷たい印象を受けるその狐は足音も立てずにゆっくりと近付いてくる。未だに耳元で何かを言ってくる気持ち悪い男の言葉は聞こえず、目の前の不気味な狐から目が離せなかった。

 狐がすぐそばまで来た。男はそれに気付いていない。男より背の高い狐が僅かに屈み、男の耳元へと唇を寄せた。


『―――動くな』


 決して大きくない声は、それでも俺にまで聞こえた。感情の見えない声。それなのに甘く全身に溶け込むような声。
 言葉を聞いた男は目を見開いたまま微動だにしない。数秒の沈黙。しかし男は動く気配がない。無骨な狐は細い腕を伸ばすと俺の両腕を押さえつけたままの男の手に触れた。一瞬触れたその手は嫌に冷たい。

『この手を離せ』


 狐の声が再び聞こえた。男はそれに従うようにゆっくりと手が離れる。この狐は実はとても偉い人なんだろうか。素直に狐に従う男が気持ち悪い。というより、この異質な空間が気持ち悪い。
 解放された手で急いで開かれたままのワイシャツを閉じた。男はぼんやりと宙へ視線を向け焦点が定まっていない。わけも分からず狐を見ると狐は再び動き出し、懐から紙とペンを取り出すと男にそれを握らせた。


『クラスと名前を書いて。書いたら家にお帰り』


 男は素直に言われたまま紙に書く。そして紙とペンを狐へ返すと男はふらふらとした足取りで俺らに背を向けて帰っていった。その姿を目で追った狐は、男の姿が見えなくなるとゆっくりとした動作で俺に視線を向けた。びくりと肩が震える。狐の手が俺に近付いた。
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