第3章 狐の声。
ワイシャツを思い切り開かれ、ついていたボタンが弾け飛んだ。体を隠そうとした手は絡み取られ頭上で壁に押し付けられる。にたにたと気持ち悪い顔を浮かべた目の前の男は俺の両手を簡単に片手で押さえると空いたもう片方の手を胸板に這わせた。ぞわぞわと鳥肌が立つ。指にたくさんついている指輪が冷えており、それが触れるたびにぴくりと体が震えた。それにもにたにたと男は笑う。その気持ち悪い笑みが寸前まで近付き、出来る限りの抵抗に顔を背けると頬をねとりと舐められた。
「女の子みたいな顔して腹筋割れてるんだねぇ」
冷えた指が俺の腹筋をなぞる。舌は頬から首筋へ下り、鎖骨にやんわりと歯を立てた。ぞわぞわと体が震え力が抜ける。その噛み跡を舐めた男は耳元へと唇を寄せた。吐息がかかり嫌悪感が増す。ぎゅっと目を固く閉じた。
「君も可哀想だね。クラスの奴らの代わりにこんなことするなんて」
今まさにこんなことをしている男が言うことか。しかし文句は言わない。言えない。体中に手を這わせたまま男は言葉を続ける。
「あんなろくでもない奴らの為に体を張ることないんじゃない?」
その言葉にたまらず男を睨み上げた。クラスの奴らは俺が体を這ってでも守りたい大切な仲間だ。それを侮辱するのだけは耐えられなかった。
しかし、その怒りを一瞬忘れた。男の背後に、狐がいた。