第2章 始まりの場所
天使名として・・・とは考えていなかったけど、生前から私には『名乗るならずっとこの名前が良い』という望みがあった。
だから、考える時間と場所を与えてくれようとしていた女性の提案を断って、希望する名前を、そのまま天使名にする事に決めた。
「変更はできませんが、よろしいですか?」と聞く言葉に頷くと、一枚の紙を渡された。
年月の経過を感じさせる、古びた紙。
何の変哲も無い紙だけど、女性が言うには神様の思想神域と繋がっている物らしい。
思想神域?と首を傾げるも、どうも『なりたて』の私にはまだ難しい話らしい。
いずれ誰かが教えてくれる、と言うので、私は『思想神域』の話を聞くのを止めた。
ともかく神域・・・神様の領域に繋がっている物だという事は分かった。
私はソレを破ってしまわない様に、シワを作ってしまわない様にと、紙を持つ指先に気を付けながら、次の言葉を待った。
一体どんな事をするのだろうか?と身構えたけれど、指示されたことは、思ったよりアッサリした事だった。
―――― 指を一本、水で濡らし、その濡れた指で紙に天使名を書く ―――
それだけだった。
「それから・・・?」と次の行動を先に聞くも「それで終わりです」と返されるだけ。
それで、天使名が登録されるらしい。
手順の難しい事をするのではないか、もしくは苦痛を伴う事をするのではないか、と身構えていただけに、私の緊張は行き場無く、シュルシュルと体から抜けていった。
「そ、う・・・なんですね・・・。分かりました」
けど、この紙と儀式が重要な事には変わりない。
すぐさま気を取り直し、私は利き手の人差し指を水に浸した。
「甲羅の上に紙を置いて大丈夫」という言葉を聞いて、紙を足元――甲羅――の上に置いて、そして。
「書体、文字の大きさは自由、縦書きでも横書きでも・・・紙の中央に・・・」
貴女の天使名を。