第2章 始まりの場所
女性に指示された通りに紙を水の中に沈めると、紙はたちまち水の中で溶けて、沈んでいった。
灯籠送りみたいだ。と思っていると、頭上から声がかかった。
これで『儀式』は終わりらしい。
立ち上がりながら紙を沈めた場所を見たけど、もう何も見えなかった。
「では」と声をかけられ、顔を上げる。
顔を上げたのは私だけでは無かった。足元の亀も、首をもたげ、女性の顔を見ようとしている。
「これから、この亀が、貴女を天界へ続く門まで送ります。その門をくぐれば、後は天界まで一本道。迷う事は御座いません」
迷う事は無い、と言う事は、つまり門からは一人で行くという事なのだろうか。
聞きたかったけど、言葉を挟むのは良くないと思い、黙って聞く。
頷きと相槌を挟んで聞いて分かった事は、亀は門の前までしか私を送れない事。門の前にまた別の女性が居る事だった。
門の前に居る女性は『天女様』と呼ばれていて、この女性より位が高い方らしい。
『天女』と聞くと羽衣で空に浮いている女性を思い浮かべてしまうけど、それは現世の人間が想像した架空の存在であって、実際は違う、と言われた。
「確かに羽衣を身に着けている方もいらっしゃいますが、宙に浮いたり、空を飛んだりはしません。現世で見聞きして得た天界の知識は、似ている様で似てない。実際に見てみれば、近いようで遠い現実が待っています」
現世で語られている事を基準にして、考えない方が良い・・・という事か。
「他に何か質問はございますか?」と聞く女性に、首を横に振る。
ここで首を横に振る、という事は、この場から離れ天界の門へ行くという事に繋がる。
未練はもう捨てた、決意も固めた。
天界の門をくぐれば、私は天界の天使。
下界が滅びるまで、下界には行けないのだろう。
だけど、大切な人を導く。
この決意は、寂しさを吹き飛ばすのに充分だった。