第2章 始まりの場所
ワンピースと半ズボンを重ねた様な着慣れない服を着て、渡された白い下駄を履く。その厚底下駄を履けば、私の姿は肩からつま先まで純白に染まるコーデになった。
水に落とさまいと片手に持っていた以前の服は、亀の甲羅に一先ず置こうと手放した途端、まるで綿菓子で作られていたのかと錯覚してしいそうな程ボロボロに脆くなり、どこからか吹き込んできた風に吹きさらされ、ポロポロと崩れ舞い、風に連れ去られるままフワリフワリと彼方へ飛んで行った。
「あ・・・」
遠くへ消えて行く『私』が『現世の私』だった唯一の証。
呆然と見送ると、『それ』は最後の足掻きの様に天に空高く舞って、溶ける様に消えていった。
「下界の名残が消え、貴女は完全に天界に住む者となりました」
未練はありますか?
そう尋ねられて、私は首を横に振った。
「・・・それでは最後に、貴女の名前を決めましょう・・・」
女性の提案に、私は首を傾げる。
「・・・名前?」
「ええ、貴女の天使名です」
『天使名』その単語に、私は『ミカエル』や『ラファエル』よく知られている名前を頭に浮かべ、そんな様な名前なのだろうか?と考えた。
「永久に名乗り続ける名前なので、貴女の好きな・・・と言ったら軽々しいですが、貴女が自分に相応しいと思う名前を、好きなように」
「・・・えっと・・・ごめんなさい。例えば、どんな名前を?他の人達はどんな名前を付けたんですか?」
私の質問に、女性は一回空に視線を向けた。
「皆様それぞれ好きな名前を付けてますね・・・尊敬する人物の名前から取った方や、生前、子供の頃によく遊んだ公園、川の名前から取った方、星座の名前、干支、お気に入りの言葉。ああ、生前の名前をそのまま付けた方もいましたね」
「あ、生前の名前でも良いんですか?」
驚いて聞き返すと、女性はあっさり『ハイ』と答えた。とくに決まりは無いらしい。
「えっと・・・じゃ、あ・・・・・・」
「慌てて決めなくても大丈夫ですよ。もし今決まらなくても、名前が決まるまで待機できる場所があります。じっくりとお考え下さい」