第1章 始
「誰、ですか」
「いやはや、探しましたよ。どうせ捨てる命なら私達のためにちょーっとだけ生き続けてみませんか?」
黒いスーツにどこか楽しそうに話す二十代くらいの、顔を紙らしきもので隠している見るからに怪しい男がそこにはいた。
紙には『政』の一文字が書かれているようだけど、一体何の意味があるのだろう。
「あの、私はここで命を捨てようとしていたのになぜ止めるのですか。なんですか自殺するなら臓器寄越せとでも言うんですか」
「ん?あー若いですし健康そうだし、腎臓片方売れば200にはなるか。いや、若さと健康を考慮しても300に……って、違いますよ」
やたらとグロッキーな会話だな。
私の腎臓がそんな値段になることに驚きだ。
片方ないだけで塩分とは一生敵対関係にはなりそうだけど。
男は鞄からお菓子や大人のおもちゃらしきものを出していて、それを見た私は普通に引いた。
仕事用鞄みたいだけどお菓子はセーフでも、もうひとつはアウト過ぎる。
社会に出ていない子供の私でも、あれは仕事場に持っていくようなものではないというのはわかる。
どちらにせよ不審者には違いないし、少しでも近づいたら辱しめを受けそうだ。
本当に私はいろんな意味で運がない人間なのだと常々思っていたがまさか死ぬ直前にまでこんな不審者に絡まれるなんて最悪すぎる。もし神がいるのなら最後くらいは四歳から十二歳くらいのショタを出してほしい。
ちなみに私は、決して犯罪者ではない。
ただ子供が好きなだけの女子だ。
犯罪者では、ない……まだ。