第1章 始
「六階までか……」
気になっていた場所に行くと施錠はされていなかったので運よく建物の中に入ることができた。
数年前まで使われていた雑居ビルのわりにはなんというか汚い場所だった。非常階段を使って屋上まで上っていると蜘蛛の巣や雨漏りがあるのがわかり元々管理の行き届いてない場所だったんだろうな、と感じさせる場所ではあったが私には関係ないしこの階段をまた利用することもなさそうなので気にしないようにした。
途中で立ち止まって休憩しながらも何とか屋上のドアの前までたどり着くことができれば恐る恐るドアノブを掴みゆっくり回してみる。鍵がかけられていないことに少し驚いてしまったがそういうこともあるだろうと深く考えないことにした。
変なところで運がいいと思いながらもドアを開けて外に出ると変に緊張した。これから自分がすることに恐怖でも感じているのかな、と小さく笑みを溢し歩みを進めると今には珍しい低めの柵をよじ登って柵の向こう側にへと移動する。
一歩、足を踏み出すだけでこの世とはおさらばだ。
ここから飛び降りたら私を見た人は悲鳴をあげるだろう。
そして救急車や警察とかが来て騒がしくなって両親に取材とか。
そうなったら一応偉いと言われる私の両親は困ってしまうのかもしれない。なんたって父は病院の院長さんで母は弁護士なのだから記者達の格好の餌食になりそうな対象だもの。
そんな優秀とも言われるであろう両親の子供が飛び降りた、なんて聞かされたら家庭環境はどうなっているのか、子供の声に耳を傾けなかったのか、なんて二人は責められることになるだろう。
でもどうせ、あの二人なら責められたところでお金で解決してニュース事態報道されなくなるに違いない。