第1章 始
「いいことをした分だけ、自分にもいいことが返ってくる」
そんな言葉をどこかで聞いた気がするけど、世の中というものは悪いことをした人が得をし真面目に生きている人にはろくでもないことばかり起こる。
不思議なものだよね。
だが不思議だと思う私は、そこまでいいことはしていない。
落とし物を届けたり、重たい荷物を持っているご老人のお手伝いをしたり、そんなシンプルなものばかりだが返ってくるものといえば悲しくなるほどのイタズラ。
イタズラの範疇を越えてはいるけどなぜだかいじめとは思いたくないのだ。プライドなのかいじめと認めたら負けたように思えるからなのか、自分のことなのにわからないな。
ふと、近くにいた他校生がテスト勉強の話をしているのが聞こえるとそういえば自分のとこも近々テストだったなと思い出してはテスト勉強をしてないことにまた気分が沈む。
事前にテストで出て来そうなところを暗記して何度も何度も、間違いで点が低くならぬよう同じところを勉強し続けてテストに挑むのが私のやり方だけど、それももう疲れてきた。
頭がいいわけじゃないのに、いつまでも記憶に頼っていたところで限界がある。
でも頑張らないとまた親に、なんて思い出したくもない。
私はただ普通に生きたいだけなのだ。
親から愛され、友人と楽しくおしゃべりしてテストの点数が悪くて落ち込む私に厳しくも優しい言葉をかけてくる先生。
だけど、そんなものはどこにもなく夢物語だとわかってはいても求めてしまう。
楽しくおしゃべりするクラスメイト、先生と仲良さげに話す生徒に親と出掛けたり一緒に笑って食事をする子。そういうものを見てきた私は夢物語だとは思えなかった。
他の子にはあるものが私にはない。
ただ私は……。
「私も、誰かに……」
愛されてみたかっただけなのに。
どうせ愛されない、必要とされてないのなら人生に幕を下ろしても誰も咎めないよね?
「そういえばこの近くに潰される予定の高い建物があったな……」
高いところは好きじゃないけど、まあいいや。