第36章 距離感
「それじゃ、本当に飲みすぎには気を付けてくださいね」
次郎さんとバイバイしてから私に対してあまりいい印象を持ってなさそうな人と話そうと探してみた。
……誰のことだろう。
多分全員と挨拶はしたし、こいつ嫌いだって思ってる人が誰だかわからない。
一対一なら本音を言ってくれそうな気がするがこんな人がいっぱいいる場所では仮面つけて笑ってそうな感じがするから探しても見つかりそうにない。
うん、今はやめておこう。
「それなら何をしよ……っうわ……!」
後ろからぐいっと手を引かれるとバランスを崩して倒れそうになったところをぎゅっと抱き締められた。
あっぶな……。
後ろから抱き締められているので誰かわからないのだがこういうことをする人を私は数人しか知らない。
石切丸「また悩みごと?」
「うわ……」
石切丸「そんな声を出されるとさすがに傷つくかな……」
困ったように笑う石切丸さんに私はどんな顔をしていたらと顔を背けた。
石切丸さんのことは嫌いではない。
嫌いではない、のだが……ちょっと苦手寄りといいますか……。
抱き締められているので離れようとするが私を離す気がないのか抱き締める腕の力は私ではどうすることもできないものだった。
「……何かご用でございますでしょーか、石切丸様」
石切丸「すごいめんどくさそうな声出すね。私のこと嫌い?」
「いや、嫌いではないです。少し反応に困るだけで……それで何か用なんですか?」
石切丸「君に触れたくなった……っていったら怒る?」
「……こ、困りはしないと思いますが……」
な、なにいっているんだ。
私の話が終わった辺りからぞろぞろと部屋から出ていったのだが、まったく人がいないわけではない。
ショタ……粟田口は全員いるし、堀川くんとか兼さんとか……なのに人前でこんな……
「困りませんけど困ります!」
石切丸「え、どっち?」
意識することなかれ。
それはわかっているのだが……。
ちらっと後ろを見ると石切丸さんが微笑むものだからグサッと何か刺さるものを感じた。
顔が良すぎて意識しない方が無理だわ。