第29章 疲れましたね
「捕まった……」
歌仙「何で逃げるんだい?」
「お叱りを受けるかと思って……」
歌仙「怒られる心当たりでもあるのかな?」
私は逃走してすぐに捕まえられた。
それもそのはず……私は、走るのが苦手なのだ。
苦手でも走るの早いだろう、なんて夢物語みたいなことはなく苦手と言えるくらいに走るのが遅いのだ。
怒られる心当たりはないが、逃げたことには怒られるだろうな……あー……眠たい
歌仙「まったく……君は……これ、君のだろう」
歌仙さんは呆れたようにため息を吐きながら私にあるものを差し出してきた。
「あ、スマホ」
無くしたと思っていたスマホが戻ってきてくれた。
いつかは見つかるだろうと真面目に探すことはしなかったがこうして戻ってきてみると生き別れた双子の妹に出会えた気分になる。
妹、いないけど
「……ありがとうございます。今度は無くさないよう大事にします」
歌仙「そんなもの壊してやろうか、なんて思った瞬間もあったけど持ち主の元に帰れたのならよかったよ。あ、主……お昼はどこで食べるつもりだい?」
「まさかの選択肢……できれば自室に運んでもらえますか。できれば毎日」
選択肢を与えてもらえるのならと真面目に仕事をこなすためにはまず部屋にこもることを考えた。
それよりも今、壊してやろうか、なんて物騒なことを言っていたような……気のせいか。
歌仙「毎日?もしかして……いつも遅れてくるのは僕らと一緒に食事をしたくなくて……」
「それ、誤解。いろいろあって時間通りには行けてませんけど、みんなと一緒に食べたいって思いはあるので……ただ今は、審神者としての仕事を安定させるために下拵え……準備をしたいんです」
歌仙「よくわからないが……それは一人でできることなんだね?」
「…………できますよ。ただそれまでは近侍の指示に従ってほしいんです」
歌仙「え、近侍がいたのかい?」
そんな、なんでいるんだ。
みたいな顔されてもな……近侍はいるものだって聞いたのに……。