第20章 口吸い
鯰尾「ほら主、お腹空いたでしょ?ご飯食べに行きましょうよ」
「むぅ……いく」
何事もなかったかのように鯰尾は平然としている。
男ってみんなこうなのだろうか……私だけ気にして男は平然としているなんて、なんだかずるい。
長谷部辺りなら……私に勢いで何かしてしまったら後から切腹する、なんて言い出しそうだ。
彼ならあり得るから怖いんだよね。
じっと見つめてきたかと思ったらついでキスしてくるし……本当にあれはなんだったんだろう。
鯰尾「主……今度はキス以上のこと、教えてくださいね……?」
「は、はぁ!?」
突然、耳元で囁いてきた鯰尾に赤面するとすぐに耳を押さえれば鯰尾は悪戯っ子のような笑みを浮かべていた。
こいつ……。
「やっぱり鯰尾やだ!」
鯰尾「え!それどういう意味ですか!」
「知らない知らない!鯰尾なんて知らないから!」
鯰尾「あー、またそうやって拗ねる!主って本当……可愛いですよね」
「うぅ!お、お兄ちゃんに言うからね!おたくの弟にどんな教育してんの、って」
鯰尾「なら俺は主にキスをねだられたってこと言いますよ?」
否定したいけど事実だからできない。
一期一振さんはいい人なので、できれば弟のことで心配を……いや、この場合……弟に迫った悪い女って思われてお覚悟されるのでは……
1%しかない信頼がマイナスになるのは避けたいし、何よりも悪女とは思われたくない。
そうなれば私ができるのはとにかく隠すことだ。
口は災いの元。
隠さなくてはいけないことは隠しておこう。