第9章 お風呂でバッタリ
「私はそういうの、好きじゃないです。私って無口な方だからよく誤解されていたんですよ……冷たい、人を見下しているとか。私の回りには暖かいものなんてありませんでした」
歌仙「……そうかな。僕から見たら一生懸命に頑張ってる女の子にしか見えなかったよ。少しばかり無茶しすぎとは思ってたけど」
「……見てたんですか」
歌仙「一応、広間にはいたからね」
人が多くてわからなかったが、大広間にいたんだ……。
一生懸命、か。
そう言われて悦を感じる性格ではないが、そう見えていたとは……現世でもその、一生懸命をやっていたら私も変われていたはずなのに、もったいないことをしたな。
回りの人が私をどう思っていたかなんて本心はわからない。
なかには歩み寄ってくれた人もいたはずなのに、私は……伸ばされた手を無意識に払っていたのだろう。
「……私はここでやり直したいって思ってるんです。ある意味、現世から逃げたようなものでも私はここで……やり直したい、現世ではできなかったことをやりたいと思ってます」
歌仙「そのやりたいことって、何なんだい?」
「そうですね……友達を作りたい、ですね。暖かい家族も作りたいし、みんなを幸せに、笑顔にしてあげたい。あ、一緒に料理とか食事とか……遊んでもみたいな」
現世では家族も友達もできなかったからな……あんな人たちは……家族とは呼べなかった、いや呼びたくなかったし。
生んでくれたことには感謝しても……あの人達を親と思いたくはなかった。
食事代や家に、住まわせてもらっていた仮はいつか返そうかとは思っていた。
あの家は私の家ではなく住まわせてもらっていた場所で、食事も……
歌仙「君ならできるんじゃないか。嫌われているって訳でもなさそうだし」
「できますかね……さて、そろそろ上がりますね」
歌仙「えッ…ち、ちょっと待って」
「あ、見ないでくださいね恥ずかしいので。目でも瞑っててください」
さすがにのぼせてきたのでお先に上がらせてもらうことにした。
立ち上がって彼の方を見ると……目元に手を当てている。
本当に見ないでいてくれるんだ……紳士的に人なのかな。