第1章 始
しばらくしてから加州は涙を拭って気恥ずかしそうに私を見てくれた。
殺気は、消えている。
この子だって誰かを好き好んで傷つけたい訳じゃないんだ。
ただ、前任のせいで……。
加州「ありが、と」
「ううん、大丈夫ですよ。私のことをすぐには信じなくていい……もし、私が主として力不足だと感じたなら斬ってくれていいよ」
加州「……変な人間」
うわぁ、言葉のストレートパンチ……地味に傷つく。
加州「でも……あんたはすごく暖かい。いい匂いがして、あいつとは違う気がする……信じてみてもいいのかな」
「それは加州に任せますよ。でも、てっきり拒絶されるか問答無用で斬りかかられるかと覚悟していたからちょっと拍子抜けかな」
加州「あいつとは違う感じがしたから。いつもなら斬るけど……あんたはなんていうか……俺もよくわかんない」
いつもなら……?いや、今は考えないでおこう。
むぎゅっとしがみついてくる加州に私は少しドキッとした。
何でだろう。先輩に告白されたときは、ときめきの一つもなかったのにこの子にしがみつかれている今は、愛しいと感じてしまう。
加州「あれ、顔……赤くない?」
「え……あ、あぁ……暑いからかな……です」
加州「いいよ。敬語じゃなくて……俺の主なんだから堂々としてなよ」
「あ、主って思ってくれるの?」
加州「っ……少しだけ信じてあげる」
頬を赤く染めてそれを隠すように胸元に顔を埋めてしまった加州に可愛いなと愛しくなると、私はここで主をするために生まれてきた気がする。
こんなにも幸せと感じたのは初めてかもしれない。
「これからよろしくね。加州……」
加州「清光でいいよ。そう、呼んでほしい」
「うん、わかったよ清光……それじゃまずは手当て、手入れってものをしようか」
私の本丸生活はまだ始まったばかり。