第5章 失うものなど
「他の、私のこと跡部って呼びずらい人にも言っておいてね。一年生の子は…史佳さんとか? あはは、なんか照れ臭いね」
そう言って笑えば、二人も笑ってくれた。
やっぱり、こういう空気好きだなぁ。みんな頑張ってる。
だから、私は誠意あるサポートを。
「じゃあ、続き頑張ってね。もうすぐもうちょっと効率化したメニュー考えるから」
「え? そこまですんのか?」
「うん。部員の活動日誌と、今後の方針を考えるのはいつもお兄ちゃんとやってたから安心してね。
ちょっと人数多いけど…なんとかなるよ。楽しみにしてて!」
「お、おう。ありがとう」
「ううん、マネージャーとして当たり前の事だよ!」
それじゃあ頑張れ! と声を掛けて、私は正レギュラーのそれに比べて大分大きな部室に戻る。
さあ、仕事仕事!
「……やっぱ史佳って可愛いし良い奴だよな」
「な。跡部部長が怖くて告白する奴いないけどな。口に出しても殺されそうだし」
「だからあいつ、パッと見モテてねーみてーなんだよなー」
「本人も全く気付いてねぇし。女子にもいるんじゃねぇか? 史佳がモテてないって勘違いしてる奴」
「あーいるかもな。あいつをよく思ってない嫉妬女とか」
「はは、笑える」
私がいなくなったところで展開されたそんな会話は、もちろん私の耳に入ることはなかった。
「夏川、部員の活動日誌取って来い」
「え? な、何ですかそれ?」
「あーん? てめぇまさか知らねぇとか抜かすんじゃねぇだろうな?」
「ご、ごめんなさい。あたし、それわかりません…」
活気付き始めた準レギュラー・平部員のコートに比べ、正レギュラーのコートでは早速問題が起こっていた。
「てめぇ、さっきからドリンクの作り方は知らねぇわ洗濯物の干し方もなってねぇわタオルは遅いわ部室の掃除はしてねぇわ、いつも何してやがったんだ!」
跡部の怒鳴り声が炸裂する。
それを聞き付けて、正レギュラーたちが集まってくる。
「そ、そんなに怒らなくても…」
びくびくと震えながら莉香は抗議するが、それに益々跡部は機嫌を悪くする。
彼は仕事に関しては人一倍シビアだった。
それを知っているレギュラーは誰も彼を止めようとしない。彼に理があると知っているからだ。
莉香を庇いたいとは思ったが、我慢していた。