第4章 罪に気付いて
他校では『氷帝テニス部ファンクラブは怖い』などと言われているが、実のところ彼女たちは非常に理想的なファンクラブだった。
良家の子息や子女、つまりは将来人の上に立つかそれに近いことを期待されている人間が多く通うこの氷帝学園の生徒に、そこまで愚かな女がいるわけがない。
夏川莉香などは例外中の例外なのだ。
きっと入学試験などは監督に免除してもらったのだろう。
あの人もあの女には何故かとことん甘い。
奴の母親か父親に弱味でも握られているのだろうか。
ファンクラブに至っては、会長たる少女、日吉にとっては先輩に当たる彼女など、あの跡部史佳に引けを取らない才女兼美女として有名なのだ。
必然的にクラブの質も上がる。
彼女たちは「ファンを名乗るならば、テニス部に迷惑など絶対にかけてはいけない」という絶対のモットーを掲げ、それを誇りとしていた。
逆に、ファンクラブに入らずにテニス部に迷惑をかける人間(盗撮盗難ストーカーエトセトラ)をファンクラブに強制加入させ、説教すらしている。
テニス部に必要以上に絡んでこようとしない。
かと言って、レギュラーなどと純粋に親しい女子に嫌がらせなどもまったくしない。
まさに健全なファンクラブだった。
練習中うるさく騒ぐのが玉に瑕ではあるが、夏川莉香のそれに比べれば大した事ではない。
ぱちん、とケータイを閉じて、立ち上がる。
布団も敷いたことだし、風呂にでも入るとしよう。
日吉は立ち上がると、自室を後にした。
―――ちなみに、日吉が夏川莉香を嫌う理由は、他にもあった。
『日吉君』
いつも嬉しそうに楽しそうに微笑んでいた、少なくはないはずの仕事を文句も言わずにきちんと、むしろ喜んでこなしていた同級生。
基本的に女子に興味のないはずの日吉が、唯一認めたその少女。
その笑顔が、時々苦しげに歪むから。
『だい、じょうぶ。なんでも、ないよ』
忘れ物を取りに一人部室へ戻れば、ひっそりと泣いている彼女の姿があった。