第4章 罪に気付いて
調べて解ったことは、やはり夏川莉香にはおかしな力があるとしか思えないということだった。
「会えば会うほど好きになるみたい。フェロモン?」
「あーん?会えば会うほど吐き気がするの間違いだろ」
「お兄ちゃんには聞いてないよ」
「ふん」
まるで食虫花のようだと史佳は思う。
口には出さない。
確かに夏川莉香はとてつもなく嫌いだが、だからと言って自分が他人の悪口を言っているところを大好きな兄に聞かれるのは嫌だった。
「えっと…。…ね、好きになってない人の共通点って何かな?」
「知るか」
「もー、考えてよ」
夏川莉香のことを考えることすら嫌なのか、非協力的な兄に史佳は苦笑する。
しょうがないなぁ、と思いながら、夏川莉香に靡かない彼を嬉しく思うのも事実だった。
少し気分が浮くのを感じながら、調べた『夏川莉香を好きになっていない人』のリストを手に取る。
ざっと数十人いるそれ、否数十人しかいないそれを軽く睨み付けた。
その様は宿題に悩む普段の彼女と同じで、とても誰かを陥れようとしているようには見えなかった。
そう感じた跡部は、やはり巻き込むべきではなかったと悔いる。
本来優しく、誰にでも無条件で手を伸ばしてしまうような、そんな性格の妹が、誰かをここまで嫌って貶めようとしているのを、彼は兄としてとても悲しんでいた。
本当なら、一生しなくてよかったことだ。
彼女は一生、誰かを嫌ったり憎んだり、貶めたりしなくてもよかったのだ。
綺麗なままでいれたのだ。
それなのに、歪んでしまった。
美しく澄んでいた自分と同色の瞳は、ほんの少しの翳りを帯びるようになってしまった。
彼女の一生を、こんな些細な下らない事で踏み荒らされてしまった。
全ては、あの女のせいで。
妹の抱くそれよりも、もっとずっと剣呑で危険な感情が、彼の中で渦巻き始めていた。
「日吉君はあの人のこと嫌いなんだよね。お兄ちゃんは…聞くまでもないか」
「ああ」
「……そういえば、この人たちも好きじゃないって言うよりは、みんな嫌ってるみたいだったなぁ……」
大きな瞳を数度瞬かせると、史佳はその明晰な頭脳をフル回転させ始める。