第1章 最後の時
「サラってさ、あの人と付き合ってるの?」
訓練の合間、仲の良い女性兵士にそんな事を聞かれた。
「へ?」と素っ頓狂な声をあげた私に、彼女は更に詰め寄る。
「だってさ、いつも一緒に居るよね」
恋愛経験なんて、訓練兵時代の先輩ぐらいだ。
あの時は胸がドキドキして、上手く会話する事さえ出来なかった。
でも彼といる時は、先輩のそれとは真逆の様に感じる。
何でも話せて、ホッとして。
話を聞いて、笑い合って。まるで……
「恋人というより、家族みたいなもんかな」
そう答えた。
「えー!じゃあさ、彼に彼女が出来たらどうする?」
その質問にドキッと胸が鳴った。
そんな事は、考えたこともなかった。
家族に恋人が出来たら嬉しい。でも……
「それはちょっと嫌、かも。」
先程より随分小さい声。
でも素直にそう答えれば、「ほらぁ!!」と大きな声でからかわれた。
その日の夕食
「サラ」
貴方はいつもと変わらぬ声で、私の名を呼んだ。
でも、私は普段通りでは居られなくて。
初めて貴方の顔から視線を背けた。
下を俯けばサイドの髪がサラサラと頬を掠め、恐らく赤く色付いているであろう、顔を隠してくれた。
「どうした?」
そう呟きながら、骨ばった手で私の髪をなぞる。
「髪……綺麗だな」
微かに聞こえたその声に、バッと顔を上げ貴方を見据えた。
「からかわないで!」
多分。いや、間違いなく顔は真っ赤だったはず。
でも、貴方はそれを指摘する事もなく、はにかんだように笑った。
ちょっと悔しくて、ちょっと恥ずかしくて。
『恋』と呼ぶにはまだ不確定な気持ちを、これ以上考える事は出来なかった。