第1章 最後の時
この壁外調査の前日も、当たり前のように貴方と過ごした。
全ての準備を済ませた夜。
練兵場の片隅で、2人きり。
「私。食べられるなら、大きい巨人が良い」
そう口にすれば、一体何を言い出すんだと。呆れた視線をこちらに寄越した。
「出来るだけ、地上に体の一部を残したくない」
理由を伝えれば、少し納得した表情を見せた貴方。
暫く何か考えた後。来月上旬、街に新しく出来るレストランの話をしてくれた。
「開店したら、一緒に行こう」
穏やかに発せられたその言葉に、どんな意味が込められているのか……それはすぐに理解できた。
「うん。一緒に行こう」
生きて帰ると、約束した。
消灯時間が近づき、私達は静かな練兵場を並んで歩き出す。
少し進んでから、斜め前を歩く貴方は私の手を取った。
ぎゅっと力を込めて握られた手は温かく、私を包む。
それがとても嬉しくて。
私も答えるように握り返した。
時折、頬を掠める風が気持ちよくて。
火照った顔を鎮めてくれた。
それでも心臓はドキドキとうるさくて。
余裕なんて、そんなもの全然無かった。