第1章 最後の時
調査兵団での生活は、訓練兵団のそれよれも過酷だった。
いや、実際の訓練自体はこちらの方が楽だろう。
しかし今までとはまた違う生活、上下関係。
なにより、同じ訓練兵団出身の同期は殆ど居ない。
もう誰かに頼ることは出来ない。
甘えを捨て、一兵士として自分の足で立たなければ……
そう思っていた時。私は貴方に出会ったんだ。
「そんなに頑張らなくていい」
突然かけられた声。
「え?」と不思議そうに彼の顔を覗き込めば、優しく揺れる瞳と視線が交わった。
その瞬間、何故か肩の荷が下りた。
今振り返れば、あの時期は環境の変化に戸惑っていただけなのだと分かる。でも、あの時の私は確かに孤独で。
その一言に、心底救われたんだ。
それから兵団に馴染むのに、さほど時間は掛からなかった。だって貴方が皆を紹介してくれたから。
いつの間にか、私はここでも大切な人が沢山出来て。
死と隣り合わせの調査兵団が『居心地が良い』と感じるようになったんだ。
貴方はいつもそばにいてくれた。
食事の時間は殆ど一緒だったし。
訓練でミスがあれば、何がいけなかったのか一緒に考えてくれた。
調整日が重なれば、街へ出かけてお茶もした。
貴方と一緒に居る時間はホッとして、素の自分で何でも話せた。