第1章 最後の時
そして私は訓練兵団を卒業し、進む道を調査兵団に決めた。
理由はいくつかある。
例えば一番広い世界を見れるから、とか。
変わり者が多いらしい、とか。
最も私の興味をそそる集団であることは、間違いなかった。
でも、そんな理由はオマケみたいな物で。
私の大切な人達は、一体何に縛られているのか。
それを考えた時……決心した。
南部へ出発する前日までの数日間、私は故郷で過ごした。
調査兵団への入隊を決めた。と伝えると、育ての親は私をギュッと抱きしめた。
何度目かの反対の後……
『あなたが決めたのなら』と背中を押してくれた。
南部へと発つ日。
荷馬車に乗り込もうとする私の元へ、家族が押し寄せた。
血こそ繋がってはいないが可愛い弟、妹達を目の前に、私は目を丸くした。何せ、お別れは施設で済ませたはずだったから。
「サラちゃん、これ持って行って!」
そう言って渡されたのは、大切にしていたのだろう……
使い込まれた可愛らしい人形。
安全を願って自作したというミサンガ。
畑で作ったというピカピカの泥団子。
施設の皆を描いたという、とても上手で素敵な絵。
涙を見せるつもりは無かったが、自然と目頭が熱くなった。
「これ、お腹が空いたら食べなさい」
最後に差し出されたのはサンドイッチ。
ご丁寧に貴重なハムまで入っている。
本来ならば、こんな高価な食材を買う余裕なんて無い筈だ。
驚き視線を上げれば、彼女は瞳いっぱいに涙を溜めていた。
胸元で握られたその手は小刻みに震えている。
あぁ……私は本当に恵まれている
こんなにも暖かい家族がいるのだから
サラは目の前の女性の手を取った。
その手は酷く荒れ、痛々しい。
なんて立派な手なのだろう
心からそう思った。
私も貴女のような、強く優しい人になりたい。
「……お母さん。ありがとう」