第1章 最後の時
サラはバッと目を見開いた。
日の位置はそのまま。だが、雲が光を遮り眩しさは感じない。
「……ちがう」
ぽつりと、か細い声で呟いた。
「ちがうの。私は……」
脳裏をあの場面が過る。
壁外調査前日、2人で歩いた夜道の事だ。
手を繋いだまま、あと数歩で練兵場が終わる所で。
貴方はゆっくりと振り返り、私に顔を近づけた。
キスされる
そう感じ咄嗟に……
下を向き、顔を反らしてしまった。
貴方はふっと笑うと、一言。
「綺麗な髪」
少し残念そうな声と共に、私の髪を撫でた。
そこからは手を繋ぐ事もなく。
残り少ない帰り道を、ただ並んで歩いた。
ちゃんと寝るように。と世話を妬く貴方の表情はどこか悲し気で。
それなのに私は、頷く事しか出来なかった。
「私は……」
サラは手に力を込めた。
右手の拳から、グチュッと耳障りな水音が鳴る。
「嫌だったんじゃなくて……」
赤く染まった右手と、すすけた左手で自身を抱き締め。そして俯いた。
「少し、ビックリしただけなの」
後悔のないように。それを意識して生活してきた。
それなのに……