第6章 ★薫の秘め事(~P83)
「黒闇様、お待たせしました」
客間を訪れると、そこに先ほどの男がいた
こちらを振り向くと困ったように笑う
「殆どが黒闇の姓だ。よかったら私の事は奏月とお呼び下さい」
「そう…げつ様?」
「様は付けないでください。それに、貴女のお名前を伺っても?」
「は、はい。私は薫と申します」
「薫さん、ですか。とても素敵なお名前ですね」
ドクン、とまたしても心臓が高鳴った
…この人、なんて素敵な声をしているの
薫は桶を置くと胸を押さえる
奏月は見目麗しい姿をしている
だが、更にその声は素敵だ
…私、このままだとおかしくなりそう
薫は頭を振って奏月を見上げる
「お湯はご自由にお使いください。それから着替えもご用意いたしましたので…」
「あぁ。できれば貴女に拭いて頂きたいのですが、お願いできないでしょうか」
言葉を遮られ薫は固まる
今奏月が言ったことが理解出来なかった
…私に…拭いて欲しい?
奏月の濡れた箇所はお腹から足
そこを拭くだなんて!
薫は目を見開く
だが、奏月はにっこりと笑っていた
「このままでは風邪を引いてしまいそうです。ダメでしょうか、薫さん?」
「……っ!」
名前を呼ばれるとまたしても胸が苦しくなった
もう逃げられない
「私でよければ」