第1章 それは責務
鈴音はこの日も祠を訪れていた
巫女装束に身を包み、腰まである黒い髪は毛先近くで束ねられていた
簪には鈴が付いており、歩けばチリンと可愛い音を鳴らす
鈴音は祠を見つめた
広い山の頂、そこだけ木は生えておらず、祠だけがどっしりと構えられている
約千年も前に建てられたとは思えないぐらい丈夫な木で出来ており、朱色に塗られたそれは今も色鮮やかだった
「白霧鈴音の名において命ずる。黄の國の門よ、その力を以て現の世を守りたまえ」
目を閉じて呟けば、祠がわずかな光に包まれる
そして光は祠に吸収されると何事も無かったかのようにいつも通り風に吹かれていた
「お疲れ様です。鈴音様」
やや時間を空けて姿を現したのは鈴音の側近、薫だった
同じく巫女であり、この祠に近づくことが許されている数少ない者である
「いつも通り、無事に終えられました」
丁寧に報告すれば薫は優しく微笑む
結界強化のためにかける時間は短い
しかし、かなりの労力を要していた
疲れてしまった鈴音は毎日薫の手を借りて山を下った
「さぁ、戻りましょう。村では鈴音様の十六歳を祝う宴の準備が進められております」
「宴なんて…結構だと断ったはずなのに」
「桜楼巫女の誕生日です。皆、貴女に期待をされてるのですよ」