第14章 龍の巫女
もともと龍の役に台詞は無い
おとなしく鎮められるのが龍神だ
にも関わらず、八千代は流れを変えてしまっている
「龍神様…?」
「我が妻となれば一生愛することを私も誓おう」
ごくりと唾を飲む
これは、龍神の求婚だ
舞を見て鎮められるのではなく、ずっと共にありたいという龍神の願い
永遠の命を持つと伝えられている龍神
そんな龍神からすれば一年なんて短いかもしれない
しかし、龍神に比べて人は早く年を取る
そう考えたら龍神が可哀想な気がしてくるから不思議だ
客席がざわつく
誰も止めに入らずに事の成り行きを見守っているのは龍神役が八千代だからだろう
「どうした巫女よ。永遠の愛を誓うなら我が手を取るのだ」
八千代が手を差し出す
豊穣祭の話を変えてしまっていいのだろうか
一瞬そんな考えが過ったが、鈴音にためらいは無かった
「龍神様。命ある限り、貴方を愛する事を誓います」
そっと手を重ねる
巫女は龍神に心を奪われた、そういうことだ
八千代に手を引かれ、気がつけばその腕の中にいた
「あ、あの…」
顔を上げれば唇が重ねられる
帳とは口付けのフリの予定だったが、八千代にもためらいは無かった
恥ずかしくて鈴音が固まっていると
「巫女は誰にも譲らん」
唇を離した八千代がニヤリと笑う