第14章 龍の巫女
舞台の袖に到着すれば、舞はまだなのかと観客席から声があがる
時間はまもなく、といったところだが、皆が待ちきれないといった様子だ
「すごいですね。皆さん、鈴音をご覧になろうと必死に席を取ってましたよ」
なんて笑う桜
鈴音は微笑み返すだけで精一杯だった
そして、しばらくすると響く音
小太鼓、笛、鈴
そのどれもが美しい音色を奏でる
もう聞きなれたそれに身が引き締まる思いだ
「お時間です」
桜の小さな囁きに鈴音は一歩踏み出す
舞台に出れば観客の視線が一気に集まる
小さく一礼し顔を上げると、八千代と視線がぶつかった
八千代は最前列の真ん中に席を取って鈴音に笑顔を見せる
それだけで落ち着いた
しっかりと音色を聴き、鈴音は舞を始める
いつもは村の為に踊っていた
だが、今では大切な人を思う気持ちが溢れている
豊穣を願う気持ちもあるが、八千代の為に役に立ちたい
そう思えば稽古だって苦ではなかった
くるりと回れば長い袖が弧を描く
指先の鈴は美しい音を奏で、鈴音の色気を誘うようだった
長い黒髪は夕陽を浴びて滑らかに輝き、いつもと違う化粧はまるで鈴音を別人のように仕上げていた