第12章 ★桜の秘め事(~P182)
桜たちは勝手場に戻ってきていた
瀬津が現れてから今になるまで、時間にすればほんのわずかな出来事だった
しかし、桜の体は震えが止まらない
「桜…落ち着け」
帳に手を握られ、桜は必死に頷く
その間も涙はこぼれていた
「ごめ…ありがと…」
「いいって。次も助けてやれるとは限らないんだから、用心しろよ。お前を狙ってる男が何人いると思ってんだ」
「そんな…知らない…」
紅葉たちが人気だという話は何度も聞いていた
だが、桜が誰かに狙われてるという話は初耳だ
「桜…」
ふと桜の手を握る帳の手に力が込められる
「帳くん…?」
顔を上げれば、不安気な瞳をした帳が桜を見下ろしていた
そして、やや間を空けてから帳が口を開く
「桜、好きだ」
「……えっ」
驚いて目を見開く
「俺もお前を狙ってるうちの一人だよ。幼なじみじゃなく、お前と恋人になりたいと思ってる」
「帳…くん?」
「だから俺のこと、ちゃんと考えて」
そう言って手が離れると
帳は踵を返して勝手場を出ていく
その背に声をかける余裕はなかった
またしても桜は混乱していたのだ
帳くんが私を…好き!?
気がつけば涙は止まっていた