第12章 ★桜の秘め事(~P182)
初めて鈴音を見た時、一瞬で心を奪われていた
可愛らしく、優しげな瞳で桜を見つめてきたのだ
思わずうつむいてしまい、まともに話す事ができなかったのは苦い思い出でもある
しかし、桜はすぐに理解した
さすがは八千代様が選んだ女性である、と
鈴音の為に働く毎日は楽しく、南の領地へ出掛けていってしまった時はひどく寂しかった
そして、二人が夫婦となってから二ヶ月経った今も、桜は鈴音にお仕えすることで毎日が満たされていた
「なにニヤニヤしてんだよ」
そんな声がして顔を上げる
そこには幼なじみの帳がいた
「帳くん…。に、ニヤニヤなんてしてないよ」
「そうかよ。どうせ、今日は鈴音様が帰ってくるからご機嫌なんだろうよ」
そう言われたら否定ができない
南の祠へと行っていた八千代と鈴音が三日ぶりに帰ってくるのだ
つい浮かれてしまう
「で、飯の下ごしらえは終わってんのかよ」
「しまった、忘れてた!帳くん、掃除お願い!」
切り忘れていた食材があることを思いだし、桜は帳に箒を押し付ける
「ちょっ…おま…」
「ごめん、このお礼は今度するから!」
バタバタと走り出した桜
その後ろでは帳が残念そうな顔をしていたなんて
全く気づいていなかった