第11章 媚薬の熱
「そういえば」
そんな声がして八千代は書類から顔を上げる
目の前にいるのは書類の整理を手伝っていた帳だ
その表情は少し不安そうだった
「どうした」
「念のため、八千代様のお耳に入れておきたいことが」
また桜のことか?
帳は普段は冷静なくせに、桜のことになると感情を露にすることがある
だから桜の話かと思ったのだが、どうやら違うようだ
「医師の紫村ですが、どうやら怪しげな薬を開発しているとの事です」
「紫村か…。引きこもりの医師だったな。一体どんな薬を開発してるんだ?」
「それが、どんな薬かは情報が無いんです。紫村は何も言いませんし、薬を服用した者も何を目的として作られたものなのか決して口を割ろうとしません」
確かにそれは怪しい
早急に事実確認する必要がある
そう考えて八千代が立ち上がろうとした時、襖が勢いよく開けられた
「失礼します!!」
「なんだ、騒々しい」
「や、八千代様!大変です!鈴音様が…紫村に怪しげな薬を飲まされたとの事です!」
目を丸くした八千代はその報告を聞くなり
すぐに部屋を飛び出していた