第11章 松栢之操【ショウハクーノーミサオ】
眠るを褥に残し、俺は一人張り出しに立つ。
城下を見下ろして一つ息を吐いた。
『お前には生涯平穏は訪れない』
あの大名の言葉が、身体の奥深くに刺さって抜けない小さな棘の様に胸を疼かせる。
あの程度の悪態で、情けなく傷付いている訳では無い。
言われる迄も無く、そんな事は百も承知であるのだから。
俺が目指しているのは……
俺が望んでいるのは、決して己の平穏では無いのだ。
それでも何故、時折こうして不安になるのだろうか。
俺の進んでいる途は正しい方向へ向かっているのか?
誰に教えを乞う事も出来ぬ。
俺が一人で成し遂げねばならぬ事……
その時、背後にふわりと優しい感触が訪れる。
振り向き見れば、いつの間にか目を覚ましたが俺の身体に擦り寄って居た。
一人で褥に残されて淋しかったのだろうか?
無言での肩に手を回し、俺の傍に抱き寄せる。
そしてまた城下を見下ろした時………
「………が……ま…」
初めて耳にする音に鼓動が跳ね上がった。