第10章 以心伝心【イシンデンシン】
その晩も、俺とは激しく愛し合った。
俺の欲望に確りと応えてくれるを感じるにつれ、貴様が俺の手を離れるなど金輪際有り得無く思えるのだから現金な物だ。
の中に全てを吐き出し最上に心地好い倦怠感の中、何時も通りお互い一糸纏わぬ姿で抱き締め合って眠る。
と身体を繋ぐ様になって以来、俺は依り一層深く充実した睡眠を取れていた。
だが……また感じたほんの僅かな違和感。
この違和感……これは………
俺は慌てて上体を起こし、天主中をゆっくりと見渡す。
そして視線を止めたのは、開いた窓のその先……
張り出しに置かれてある見慣れない荷だった。
を起こさぬ様、静かに褥を抜け出し、その荷に近付く。
風呂敷に包まれたその結び目を解いてやれば、中から現れたのは数本の反物であった。
「此れは……?」
手に取ってさらりと拡げて見ると、三日月の頼り無い光でも分かる程、どれも上質で見事な品だ。
金糸銀糸をふんだんに使用した豪華な物、
雌黄の生地に色取り取りの小花が散らされた愛らしい物、
濃藍に一輪、純白の蓮が染め抜かれている物………
そのどれもが………の為だけに誂えたかに思えた。
これ程の品を用意出来るなど、あの男しか思い付かぬ。
そう、甲斐の虎。
そして此れを安土城天主に簡単に持ち込める者……
それもたった一人しか考えられぬ。
俺は至極自然にくつくつと喉を鳴らした。
「俺との睦み合いを見ておったか?
………どうであった?
俺は、貴様の願いを満たせておるか?」
当然、返事は無い。