第10章 以心伝心【イシンデンシン】
俺の目が褥の中でもぞもぞと動くの姿を捉える。
「起こして仕舞ったか?」
そう声を掛けながらの傍らに屈み、その髪を優しく撫でた。
「……貴様の髪を一房貰っても構わぬか?」
俺が何をしたいかなど理解出来ていないであろう。
それでもは柔らかく微笑んで頷いてくれた。
「……すまぬな。」
懐刀での艶やかな黒髪を一房そっと斬り取り、その端を紙縒りで固く括る。
それを持って張り出しに戻り、置かれていた荷を持ち上げると代わりにの髪を其所に置いた。
「俺が、必ず………。」
そこまで呟いて俺は荷を持ったまま再び褥に戻り、の隣に横たわる。
「まだ夜半だ。
さ……もう一眠りすると良い。」
そう言ってやればは俺の胸に顔を埋め、幸福そうに吐息を漏らした。
そんなの小さな身体を抱き寄せて、その温もりに酔い痴れれば俺の瞼も直ぐに重くなって行った。
翌朝……冷んやりとした朝の空気に目を覚ます。
褥の中から張り出しに目を向けて見ると……
確かに其所に置いた筈のの髪は、跡形も無く消えていた。
あの一房の髪が何処へ……誰の手に渡るのかなど考える迄も無い。
は皆に愛されて、俺に愛され尽くして………
今は唯、日々を笑って暮らしていると、それだけが伝わればと願わずには居られなかった。