第9章 屋烏之愛【オクウーノーアイ】
亥の刻……俺は褥の上に腰を下ろし、を待つ。
夕餉を終えて退席する際、は既に眠そうであった。
そのまま自室で眠りに付いて、今宵は天主に現れないのでは無いか……
そんな事を考え焦れて居る己の愚かさに嘲笑が漏れる。
が欲しいのであれば、さっさと自分の手で連れ出して奪って仕舞えば良い。
こんな所で大人しく待ち続けるなど、俺の性分では無い筈であるのに、が自らの足で此処に……
俺の隣にやって来るのを何よりも望んでいた。
「……早く来い。」
その時、無意識に呟いたその言葉が合図であったかの如くからりと襖が開く。
天主に一歩足を踏み入れたは、何故か其処で立ち止まって仕舞った。
「……どうした、?」
それでもは動かない。
触れる前から怯えさせて仕舞うとは、己の矮小さにとことん呆れる。
今は唯、が愛おしい……それだけが伝わってくれれば………
「さあ……此処に来い。」
柔らかい声色で言って右手を差し出せば、漸く安心して表情を緩ませたが褥に歩み寄って来た。