第8章 堅忍果決【ケンニンカケツ】
俺の考えている事を察したのか、信玄はぽつりとそう言った。
その後に訪れた暫くの沈黙の間も俺は席を離れなかった。
脚を組み、膝に頬杖を付いて欠伸をして見せる。
信玄はそんな俺を見て一つ鼻で笑うと、ゆっくりと語り始めた。
「この娘は……自分が女である事を蔑んでいた。
女であるが故、どうしても男に適わない部分が在る事を許せない様だった。
俺はそんなこの娘を見ているのが辛かったよ。」
そこまでを聞いて、俺は先程が反物や簪に興味を示しながらも、まるで無理矢理拒絶する様な態度に合点が行った。
自分はこういった物を手にしてはならないと……そう思っていた以前の感覚が残っていたのではないだろうか。
そして信玄の『独り言』は続く。
「直に十八になる。
ならばこんな世界からは足を洗わせて、
一人の女性として生きて欲しいと思ったよ。
満更でも無い捌號と所帯を持ったって良い。
何処か遠くで静かに暮らせば良い。
この仕事が終わったら……
そう思って行かせた仕事の結末がこれだ。」
遠い目をした信玄がぎりぎりと唇を噛む。
そして一つ、大きく息を吐いた。
「俺はこの娘にどうしても詫びたくて、
生きていても死んでいても構わないから俺の前に連れて来いと言った。
そして齎された報告は……
『十参號は新しい生き場所を見つけたらしい』
だから恨んでも恨みきれないお前が居る安土にまでやって来た。」