第8章 堅忍果決【ケンニンカケツ】
俺と信玄の間で退屈そうに足をぶらぶらさせているの頭を、信玄の大きな手がそっと撫でる。
「君は此処に居たいかい?
この人の隣に居たい?」
にしてみれば、突然見知らぬ男に触れられ問われたのだ。
怯えて仕舞うのではないかと案じたがそんな素振りも見せず、きょとんとした表情で俺と信玄の顔を何度も交互に見渡す。
そして俺の腕にしがみ付くと、僅かに不安そうな目をして大きく一度頷いた。
「そうか…。
君は……この人の事が好きなんだね?」
すると今度は間髪も入れず、満面の笑みを浮かべてこくこくと頷く。
そんなを見た信玄もにっこりと笑い
「うん、元気で暮らすんだよ。」
そしてそのまま立ち上がる。
「まさかこの俺が、
織田信長……貴様に救われるとはな。」
あの男……
『上手く誤魔化してみせる』と言いながら、信玄に真実を告げたのは…
だけでなく罪悪感に雁字搦めにされていた信玄をも救いたかったのではないだろうか。
「貴様…あの男に処罰など下してはおらぬだろうな?」
立ち去ろうとする信玄の背中に声を掛ける。
顔だけを振り向かせた信玄はにやりと笑った。
「そんな事をする訳が無いだろう。
言っておくが、捌號が居なくなれば一番困るのは俺だ。」
再び歩き出した信玄に、俺はもう一度声を掛けた。
「あの男に伝えてくれ。
今宵、貴様との約束を果たす…と。」
「何の話か分からんが…一応伝えておくよ。」
そう言った信玄は、今度は振り向く事無く軽く片手を上げて去って行った。