第7章 熱願冷諦【ネツガンレイテイ】
「あんたと十参號……相性良いのかもな。」
俺が考えていた事を見透かしたかの様に言った男は、「さて…と…」と億劫そうに腰を上げる。
「長居してすまなかったな。
じゃあ、そろそろ御暇するわ。」
「何だと?
はどうするつもりだ?」
「んーーー…置いてくよ。
俺、十参號を担いだまま安土から逃げ切る自信ねえわ。」
けらけらと笑う男はそのままの傍に屈み込んだが、何故か俺はもうを庇う事はしなかった。
「十参號の事……あんたに託しても良いか?」
「だが、信玄に『連れ帰れ』と言われているのだろう?
主君の命に背けば……」
「何?あんた、俺の身を案じちゃってくれてんの?
あんた、本当に善い奴だなー。」
男は顔を上げ、俺をからかう様に今度はにっ…と笑った。
確かに…俺は今、無意識の内にこの男の処遇を案じた。
を連れ帰らねば主君の命に背いたとして処罰を受けるのでは無いか……と。
「ま、何とかなるでしょー。
俺、口八丁だからさ。
上手く誤魔化してみせるよ。
それに………」
男の真っ直ぐな視線が俺を射抜く。
「家畜にだって仲間の幸福を願う事くらい出来んだぜ。」