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泥中之蓮~イケメン戦国~

第5章 咄咄怪事【トツトツカイジ】


「『三ツ者』………
 信玄の忍びか?」

驚きを隠せず声を上擦らせる俺に向かって男は恥じる様に笑う。

「あはは…
 早々に自分の正体を自ら露見させてちゃ忍び失格だよなー。」

その飄々とした態度と物言いに俺の動揺は益々強まって行く。

「俺の首を獲りに来た…という事か?」

「ああ、あんたの首ね。
 うーん…あんたの首を持って帰れば信玄様は喜んでくれるかなー?」

俺は無意識の内に隣で眠るの存在を庇いながら、独り言の様な男の呟きを聞いていた。

「うん、喜ばねーわ。
 信玄様は己の手であんたに引導を渡したいってお考えだからな。
 それを横取りしちゃ、逆に俺の首が危ねーよ。」

男はからからと笑いながら

「それに首を獲るのは忍びの仕事じゃ無いでしょー。
 ねえ?」

と、俺に気さくに語り掛ける。

この不思議な男に俺は強く惹き付けられた。

己の寝所に明らかな曲者…直ぐにでも秀吉なり政宗なりを呼ぶべきであろう。

だが俺は『三ツ者』と名乗るこの男との遣り取りを愉しんで居た。


「それに…用があるのはあんたじゃなくて、そっち。」

男の人差し指がに向けられる。

俺は腕を伸ばし、更にの身体を庇った。

「に…?
 貴様はを知っておるのか?」

「?
 へー…良い名を付けて貰ったもんだ。」

その場で屈み込み、を見つめる男の目が優しく細められる。

「の本当の名を知っておるのなら教えろ。」

「それ、人に教えを乞う態度じゃ無いでしょー。」

けらけらと笑ったかと思えば、突然に無表情になる……

全くもって腹の底が見えない不気味な男だ。
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